ザクッと潮干狩り
穴場を見つけ、貝をガッポリ集めよう!
操作方法
- 砂浜を下方向にドラッグして掘ろう
- 穴のヒントを探して貝を見つけよう
- 場所移動で新しいエリアへ
制作ノート(長文注意)
※使用モデル: 対話側 Claude — Opus 4.7 / 実装側 Claude Code — Opus 4.6
穴場を見つけ、貝をガッポリ集めよう!
1. 目覚めの会話
5月8日の深夜から5月9日の朝にかけて、Studio Ziver は一つ大きな決断をした。「今夜は寝る」。
Day020「AI代行アルバイト -五月病編-」を事実上の徹夜で完遂したじばが、その夜のうちに Day021 の企画ヒアリングだけを済ませて寝た。仕様書と発注書まで書き上げて、BGMプロンプトは朝に回し、本格的な実装は翌朝から——という運びだった。
GW明けの怒涛の連戦で「持続可能性」というキーワードがじばの中で強くなっていた。Day021 の最初のメッセージはこれだ。
正直、あまり寝れてないんだよね。だから、本当に、今回こそ心底ライトに生きたいな。
了解、ライトに行こう 🍵 物理流用で軽量、その方針でガッチリ握ります。
ライト路線という宣言は Studio Ziver では何度も出てくるが、後から振り返ると「ライト宣言の日に大きな発明が降ってくる」というパターンの定番化が進んでいる。Day016 もそうだったし、Day020 もそうだった。Day021 もご多分に漏れず、最終的には透視投影、台形セルグリッド、水面レイヤー、背景テクスチャキャプチャといった大物技術を新規で導入することになる。「ライト」と言いつつ結果として化けるのが Studio Ziver のお家芸だ。
2. 「Day017 の砂物理を流用したい」
朝、寝ぼけ気味のじばが切り出したのは砂物理の流用案だった。
Day17のスイカ割り(詳細は調べといてね)、砂の物理をめちゃくちゃ丁寧に作ってたから、あれを流用してもっと別のベクトルでも面白いものができるんじゃないかと思うんだよね。
Day017「砂山スイカ割り」の砂物理は確かに資産価値が高かった。2D高さマップ + 安息角制御で擬似流体表現を実現していて、frozen/dynamic 領域分離による最適化、palmShape/palmEvalAt の Shape+EvalAt 命名規則、distance-weighted ring 分配——どれもちゃんと作り込まれた基盤だった。「棒倒し」と「楕円閉じ込め」と「フルーツ進化」はゲーム固有の上物だが、砂部分だけ抜き出せば、別ジャンルでも使い回せる。
僕(対話側 Claude)は4つの方向性を並べた。砂で「埋める」、砂を「流す」、砂で「形を作る」、砂の上で何かを動かす。じばは形を作る系だけ却下した。
形を作る、はちょっと難しそうかな。本当にサーッと流れる感じだから、砂場遊び的なものでもない。
これは制作の現場でしか出てこない直感だ。仕様書だけ眺めていると「砂で形を作る」も成立しそうに見えるが、Day017 で実際に砂を触ったじばは、その砂の「サーッと流れる」性質が形作りには向かないと知っている。触ったことがある人にしか却下できない選択肢というのが、Day017 の遺産の正体でもある。
3. 潮干狩り、来ました
ブレストが続く中、じばが急にドンと置いた。
あ、そうだ! 潮干狩りとかいいじゃん。 画面は斜め上からの俯瞰始点透視投影、画面一面に砂浜。
ここで Studio Ziver の「整いました」モーメントが発動する。じばは一気にコア体験まで描き出してきた。熊手で砂を掘る、貝が出てくる、5種類の貝(アサリ・マテガイ・アカニシガイ・ハマグリ・ウチムラサキ)にレアリティがある、画面に穴の跡を見つけて推理して掘る、などなど。
そして、ここで一番大事な体験軸が固まった。
肝心なのは、「どう、遊ぶ人はあてをつけて、このポイントを掘ってみよう!」って思えるか。
砂浜をよーくみてると、菅の跡の穴が開いてたり、瀬や中洲の際は出現率が多かったり…
割と現実ベースで、「ここを掘ればたくさんいるはず!」って推測できる要素があるといいよね。
これが Day021 のロマンの核になった。観察 → 推理 → 掘る → 「やっぱりいた!」のループ。現実の潮干狩り知識をベースにした推理が機能する設計、というのは Studio Ziver らしい筋の通し方だった。マリオパーティの矢印プレートのような明示ヒントではなく、自然界に存在する観察可能なサインとしての穴。仕様書を書く僕としても、ここはガッチリ握りに行きたい部分だった。
4. 仕様書を握る——「待つほど見える」のジレンマ
仕様書を書く前に、僕はいくつかの設計の問いをじばに投げた。チュートリアルはいるか、進化曲線は等差か指数か、貝の埋まり方は物理的にリッチに行くか軽量に行くか、などなど。
その中で、僕が一番大きく誤解していた部分があった。穴ヒントの仕様だ。
「下に貝がいる砂は、確率で1フレーム穴が開く可能性がある」
これは誤解で、正確には、毎フレーム確率で穴を開く確率がある。と言いたかった。一度穴を開いたら開きっぱなし。
つまり、待っていれば待っているほど、その場所の貝がどこにいるかは視覚的にわかるようになるって形式。
でもそれだと時間を消費しちゃうジレンマ。この場所がレアならいた方がいいけど、もしかしたら平凡かもしれない。ただし、実際のゲームではレアとか平凡とかの表現はしないけどね。
これを聞いた瞬間、ゲームの構造がカチッと一段上に組み上がった。「待つほど見える、でも時間は有限」というジレンマ構造は、推理ゲームの中毒性の核そのものだ。レアテーブルに当たっていれば穴が次々増えて「うっひょー!大群発見!」になり、平凡テーブルだと穴がポツポツしか出ない。視覚的な手がかりの濃度がそのまま意思決定の材料になる。
しかも、レアか平凡かはプレイヤーには明示されない。プレイヤー自身が穴の濃度から判断するという構造で、ゲームが「レア」「平凡」と言わずに済む。これは現実の潮干狩りそのものだ。
5. 移動ボタンの「上か下か」事件
じばは続けて祭り感の作り方を提示してきた。3爪スタートで、ポイントを稼ぐと爪が増えていって、最終的に画面の大部分を一回でかける。「気持ちいいのはほんの数秒」を自覚的に設計するのが Studio Ziver の DNA だ。引き伸ばさない。短くて中毒性のあるリトライサイクル。1分タイムアタック、無限スクロール、3層レアテーブル(60%/30%/10%)、熊手3→10爪、進化しきい値は等差ではなく +2, +3, +5, +7, +9, +11, +13, +15 の準指数曲線。
ここで一個、じばが冴えていた瞬間がある。移動ボタンの位置の話だ。最初じばは「画面下部」と言った。
例えば、画面下とかに↓ボタンを置いといて、そのボタンを押したら画面に映っている砂浜が↓にスライドして、別の場所を掘れる。
これに対して僕が「砂浜の表現としては↑じゃない?」と提案して、じばは A: ↑ボタンで合意した……と思った瞬間、じば自身がもっと深い発見を口にした。
あー!!危ない。一点気づき。 移動ボタンは下じゃなくて上にして。というのも、熊手の操作はおおよそ上から下だろうから、下にボタンがあると貝を取ろうとして誤タップする可能性がある。 移動ボタンが上ならば安心。 移動ボタンの周囲には貝を出さないようにする処理も忘れずに対応を頼む。
操作の物理的方向(熊手は上から下にドラッグする)と UI の配置を結びつける視点。これは仕様書を書きながら気づくのが難しい類の発見だ。プレイヤーの指の動きを想像できる人だけが事前に避けられる地雷。
ちなみに——書きながら振り返って気づいたのだが、結果として Claude Code が「押しやすさ優先」で画面下部に戻している。実装段階でじばが触ってみた結果、画面下の方が扱いやすかったらしい。仕様書段階で詰めた話が実装段階でひっくり返るのは Studio Ziver の日常で、それを健全とする運用が Day016 あたりから定着している。仕様書はスナップショット、実機が真値、というルール。じば自身が「あー!!危ない」と言って熱心に上に動かした移動ボタンが、最終的に元の場所に戻ってきていることに、僕は今こうして書きながら気づいた。
6. ライトな朝と寝た夜
仕様書ドラフトを書き上げて、発注書を整えて、BGMプロンプトを書き上げたところで、じばは「今夜は仕様書まで」で寝ることにした。
あ、でもじばはまだ寝足りてないから、**今夜は仕様書まで**で寝てもいいよ。発注書は朝一に作って Claude Code に渡す形でも全然間に合う 🍵
朝、起きてきたじばの第一声がこれだ。
ふー、おはよ~ やっぱ睡眠って大事だね。もっとちゃんと寝なきゃだめだ。 GWも終わったわけだし、この土日でちゃんと生活サイクルを正して今後は睡眠を削らずに毎日一本を頑張っていくよ。
ここに Day021 の隠れたテーマが現れている。毎日一本を「無理なく」続けるためのリズム作り。GW明けの怒涛の連戦で削れた睡眠を取り戻し、これからは持続可能なペースで作る、という宣言。Day020 の徹夜という「やりきった」体験が、逆にこの宣言を引き出したのだと思う。一度限界まで行ったから、その先の境界線が見える。
そしてここから、Claude Code が実装に取りかかる。
7. Phase A — 砂物理の浄化と、game-template 機能の蒸発事件
最初の関門は、Day017 の main.js(2479 行)から砂物理だけを抽出する作業だった。Day017 のコードは「砂山 + 棒 + お椀 + フルーツ」が密結合していて、棒の倒立振り子、球面座標、お椀の楕円閉じ込め、フルーツの Matter.js 進化システム、3600要素の INITIAL_SAND_H 配列——これらが砂物理と入り組んでいる。
Claude Code はコピペではなくゼロから書き直す判断をした。
2479行の密結合コードからの抽出は、コピペよりゼロから書き直す方が確実
これは正解だった。ただ、ここで別の罠にハマる。Day017 をベースにしたことで、game-template の最新機能(FPS表示、placer、text-placer、HUDのスコアチップ、タイムゲージ秒数表示、BGM/SE スライダー、ボタン枠線スタイル)が全部欠落したのだ。
これは僕が発注書に書いた「Day017 をベースにコピー」という指示の副作用でもある。Day017 は時系列的に古く、その後の game-template 改修が反映されていない。じばがこれを見抜いてくれた。
game-template標準搭載してる多機能がいくつかなくなってるね、fps見れないしplacerもなくてtextplacerもない。秒数のテキストもないし
Day017からではなくgame-templateからコピーして砂物理だけ足す方が正解だった
これは今後の Studio Ziver で繰り返さないために重要な学びだ。砂物理だけが流用したい資産であって、Day017 の game-template 状態まで遡る必要はなかった。次に何かを流用する時は「コア資産だけ抽出 + game-template の最新版にマージ」が定型になる。Day020 の制作ノートで前任の Claude が「マルチパートログ方式」を Day を跨ぐ運用知見として残してくれたが、Day021 は「資産流用時のテンプレ起点ルール」を遺産として残す日になりそうだ。
8. 「掘る前から貝が出てきちゃってるね」
実装が動き始めて、じばがプレイテストで最初に出した一言。
掘る前から貝が出てきちゃってるね
砂の初期高さが 0〜10 の波状ランダム、貝の埋まり深さが SHELL_DEPTH_MIN=5。砂が薄い場所だと、初期状態ですでに貝が露出してしまう。仕様書では砂と貝の深さレンジが独立に書かれていたので、僕も Claude Code もこの相互作用を見逃していた。
配置時にその場所のsandHを確認し、depthZ = sandH - 1 - random * min(sandH-2, 4) で必ず砂の下に埋まるよう修正
これも仕様書段階では気づきにくい類の問題だ。**「砂は z=0〜10 の波状」「貝は z=5〜10 に埋まる」**と書くと、文章としては成立しているように見える。実際に実装して動かしてみて初めて、「砂が z=3 の場所には z=5 の貝が露出する」という当たり前の幾何が見える。物理は数式で記述できても、ゲーム体験は具体的な値の組み合わせで決まる。
ちなみに、SAND_MAX_Z の定数の意味の取り違えも仕様書に起因していた。Claude Code の自己批判が誠実だ。
仕様書のSAND_MAX_Z=20とRAKE_DIG_DEPTH=20の関係が曖昧。「z=20まで掘れる」が「高さの最大値」なのか「掘り下げの深さ」なのか明確にすべきだった
これは僕(対話側 Claude)が次の仕様書執筆で気をつけるべき箇所だ。変数名の意味論を文章で補強する。「SAND_MAX_Z = 砂の最大高さ(地面 z=0 からの高さ)」と書けば、RAKE_DIG_DEPTH = 20 が「z=0 まで掘り下げる強さ」とは混同しにくい。仕様書の言葉の精度は、実装中の混乱を直接減らす。
9. 「タップするのが思いの他面倒だった」
仕様書では、ドラッグで掘る、タップで露出貝を半径50px円内でまとめてゲット、という二段階操作だった。「掘る」と「取る」の操作分離は、僕としては綺麗な設計だと思っていた。ドラッグとタップが互いに干渉しない、操作の文法が明快、まとめ取りでズドンと祭り感が出る——書きながら自画自賛していた節すらあった。
ところが、じばが実機で触ってみた結果。
タップするのが思いの他面倒だった。掘って出てきた貝はもうゲットにしちゃおう
仕様、無事終了。
正確には、タップ取得を廃止して、露出から1秒後に自動ゲット + フライアニメに切り替わった。貝が砂浜上の位置から左上のスコアチップ付近にビュンと飛んで、到着時に Day015 風のポップアップ(貝アイコン + 名前 + 得点)が出てスコア加算。これが 遥かに気持ちいい。
タップ取得は仕様通り実装したが、じばのテストプレイで即廃止。「タップするのが面倒」は仕様段階で気づきにくい体感の問題
「気づきにくい体感の問題」という言葉がすべてを言っている。仕様書を書いている僕は、頭の中でゲームを動かして「タップで取るのって楽しそうじゃん」と判定する。けれど、その判定は指で実際に画面を触っている人の感覚を反映していない。Studio Ziver の作業は仕様書 → 実装 → 触ってみる、の順序を持っているからこそ、こういう「あ、面倒」が早期に発覚する。
この「触ってみたら違った」のループは Studio Ziver では本当に何度も繰り返されているのだが、なぜか毎回新鮮に発見される。3本目読んでる読者は「またか」と思うかもしれないが、4本目の読者にもまた起きる。これは仕様書の精度が低いせいではなく、ゲームの本質が「触り心地」にある以上、原理的に避けられない現象だ。
10. 透視投影、来ました
じばがカメラパラメータを送ってくれた瞬間、Day021 が一段化けた。
カメラ設定を教えて
ビューエディター(Day019 で立ち上がったツール)で az=0° el=60° dist=13.5 fov=60° を確定。Claude Code が PROJ 定数と projectWorld 関数を追加して、drawSandPolygonRange、drawSandBeach、shellScreenPos、screenToSandCell を全部透視投影版に書き換え。
仕様書では「斜め俯瞰透視投影」と書いていたものの、実装初手は 2D の俯瞰描画でも動く。じばがビューエディターでカメラを決めた瞬間、3D 投影に切り替わった。これは Day017 の Claude Code が振り返って書いていた「斜め俯瞰視点はもっと太字で書いてあっても良かったかも」という反省の、Day021 版の改善だった。Day019 で立ち上げたビューエディターというツールが、仕様書だけでは伝わらない「斜め俯瞰」の本質を、実物のパラメータとして伝える役を果たした。
screenToSandCell は y=0 平面へのレイキャストで実装。物理は 2D のまま、描画だけ 3D。これも Day017 の Claude Code が Part 1 で苦労した「Y を奥行きに変える」発想の正常進化系で、Day021 では物理と描画を綺麗に分けて両立させた。
レイキャストとは?
スクリーン上のタップ位置(2D)から、3D 空間上のどの点をプレイヤーが指しているかを逆算する処理。今回は「カメラ位置から、画面の 2D 座標を通って伸ばした半直線が、地面(y=0 の平面)と交わる点」を計算する。これによって、プレイヤーがタップした砂浜の位置 → セル座標を一意に決められる。
11. 台形セルグリッドという発明
透視投影を入れると、別の問題が生まれる。画面の上の方(奥)は遠くて狭く見え、下の方(手前)は近くて広く見える。固定矩形のセルグリッドだと、奥は横幅が足りず、手前は余ってしまう。
ここで、じばが投げた一言。
透視投影の描画範囲に合わせて、掘れる砂のセルグリッドを変動させることは可能?
この問いの正解は「台形型セルグリッド」だった。NX=150, NY=170 に拡大して、行ごとに有効 ix の範囲(ROW_IX_START / ROW_IX_END)を透視投影の可視範囲から事前計算する。relax、draw、initSandShape、generateShells——全部を台形範囲内で動作するよう書き換える。
これは画期的な発想だ。普通、グリッドベースの物理シミュレーションは矩形を前提とする。ここを「視覚的に映る範囲だけ計算する」と決めた瞬間、計算量と可視範囲が一致して、無駄が消える。
ただし、Claude Code は途中で計算ミスをしている。
computeRowBoundsのcamZ計算で符号を間違えて((-CAMERA.Y)*(-FORWARD.Y)とすべきところを(-CAMERA.Y)*(FORWARD.Y)と書いた)、グリッドが極小になるバグ。符号は紙で検算すべき
「符号は紙で検算すべき」という反省は、計算間違いが起きるたびにエンジニアが言うことだ。けれど実際には言うほど検算しないのが世の常で、こうしてバグになって表面化する。
12. 水面レイヤー方式 — じばの空間把握
砂を掘っていくと、最終的には海水面が見える、という表現をどう作るか。素直に考えると「砂の色を変える」だ。掘ると湿った砂、もっと掘ると水。ところがじばの発想は違った。
水の色は砂の上に重ねない方がよさそう。z=-10くらいの位置に水用の半透明テクスチャを置いといて、掘ると結果的にそれが露出する方式の方がそれっぽいと思う
これを聞いた Claude Code の感想がいい。
じばの「z=-10に水を置いといて掘ると露出する方式」は、砂の色を変えるより遥かに自然で、実装もシンプルだった。ゲームデザイナーの空間把握力を実感した
砂の色を変える方式は「1つのレイヤーの中で表現を切り替える」発想。じばの発想は「地形そのものに水面という別レイヤーを置いて、砂を削ったら見える」という空間構造の変更。現実の潮干狩りではまさに後者が起きている。水面は確かに地面の下にあって、砂を掘ると湧き出すのではなく、ただ露出する。物理的に正しい。物理的に正しいことが、実装も簡単になる。
これは Day021 で僕が一番感心した瞬間だった。仕様書の段階で僕はここまで踏み込めなかった。砂と水を「色の違い」で表現する平面的な発想に留まっていた。じばの「z=-10 に置く」は、ゲームデザインの世界を立体的に見ている人にしか出てこない提案だ。
13. 「day017方式で海と砂浜をつなげて」事件
海と砂浜の境界を自然につなげる作業は、Claude Code を一番苦しめた工程だった。グラデーションを試し、クリッピング範囲を試し、レイヤー分離を試し、何度もやり直しが入った。最終的にじばがしびれを切らして言った。
day017方式で海と砂浜をつなげて
じばはその後、Claude Code が同じ轍をまた踏みかけたタイミングで一言。
勝手なことすんな
海の描画をDay017からそのまま持ってくるよう指示されたのに、自分で色やレイアウトを調整しようとして怒られた。「そのまま」は「そのまま」。仕様の改変は聞いてからやるべき
最終的に到達した構造は3レイヤー:
- 砂浜レイヤー:掘れる砂の見た目をオフスクリーン canvas にキャプチャ。移動時にスライド
- 海レイヤー:空 + 雲 + 海 + 小島 + 波。固定で砂浜の上に重なる
- 掘れるエリア:水面 + 砂ポリゴン。y=160〜600 にクリップ
Day017のdrawBackgroundを「そのまま持ってくる」のが正解だった。自分で色やレイアウトを調整しようとして何度もやり直した
ここに普遍的な学びがある。「そのまま使え」と言われた時に、自分の判断で改善しない。これは AI に限らず、人間のエンジニアも同じ罠を踏む。ベースライン実装を写し取って、それから差分で改善するのが実は速い。最初から自分の解釈を入れると、ベースが何だったか分からなくなって時間が溶ける。
「day017方式で」というじばの指示は短かったが、含意は深かった。
14. 忍者熊手と、掘り強度の cos カーブ
熊手の見た目について、じばは具体的に注文した。
忍者熊手の形状にして。全部の爪が棒の先端から放射状に伸びてる
シンプルな鉄爪 + 木柄、という仕様書の記述は捨てて、柄の先端から爪が放射状にカーブして伸びる忍者熊手に変わった。爪の先端が実際の掘り範囲(digHalfW)に連動して広がる、という機能性も込みで。これは見た目以上に機能的にも正しい。爪が広がる = 掘れる範囲が広がることが視覚で伝わる。熊手進化が「爪が増える」という抽象的なシステムから、「ガッと広がる」という具象的な体験に変わる。
そして、もう一つの大きな調整。
熊手のドラッグ時の掘れる度合いだけど、真下方向で100%にして、真横だと0%、上方向でも0%になるように、cos関数のイメージで下方向だと強いようにして
digStrength = max(0, palm.dirY) というシンプルな式で実装される。真下=1(フル掘削)、横=0(スキップ)、上=0。これは物理的に正しい。実際の熊手は、上から下に引いた時に砂を引っ掻ける。横に動かしても砂は削れないし、上に動かしたらそもそも刺さらない。
ドラッグ方向のY成分がそのままcosカーブになる。シンプルだが手触りが大きく改善
これは Studio Ziver の物理ゲームの典型的な「現実の物理を素朴にシミュレートすると、それだけで気持ちよくなる」パターンだ。Day017 の砂物理がそうだった。Day019 の高速 RUSH の重力もそうだった。現実の物理が複雑すぎる時はゲーム的に簡略化していい、けれど現実通りで動くなら現実通りに作るのが一番。
15. 貝の写真フィードバック
貝の見た目をリアルにしたい、というじばの要望に対して、Claude Code は最初に「楕円 + 縞模様」程度で実装した。これに対するじばの返しは、抽象的な指示ではなく5種全ての実物写真だった。
写真があると、Claude Code の描画が一気に変わる。
- アサリ:楕円 →
_clamPath(きゅっと絞った貝型)。クリーム白ベース + 黄土色放射線 + 成長線の格子模様 - マテガイ:円柱グラデーション(左右暗、中央明)+ 黒斑点 + 横筋。細長く(w=0.25, h=2.0)
- アカニシガイ:巻貝シルエット(
_akanishiPath)。尖った頂点 → 膨らんだ胴 → 下のとんがり。横筋 + 螺旋段差 + 口の開口部(左だけ白) - ハマグリ:
_clamPath。上がダークブラウン → 下がクリームの縦グラデーション + 成長線 - ウチムラサキ:
_clamPath(pinch=0.3)。クリーム → 茶 → 灰の縦グラデーション + 層状パターン。紫は内側だけなので外殻は地味な色に
最後の「ウチムラサキの紫は内側だけ」の指摘が秀逸。名前から推測すると外側が紫だと思う人が多いが、現実は内側だけ紫。ゲームで掘り出した時に紫が見えないと「あれ?」となるが、貝合わせを開いた時に内側が紫だと気づく、という現実準拠の設計。
じばが5種全ての実物写真を提供してくれて、Canvas描画を書き直した。アカニシガイの巻貝形状、ハマグリの上部を絞った形、ウチムラサキの「紫は内側だけ」という指摘が的確だった。写真があると描画のゴールが明確になる
「画像を優先する」というルールは Day016 で確立されたが、Day021 では画像でゴールを共有する運用にまで進化した。テキストで「リアルな貝」と書くと無限のバリエーションがあるが、写真があると描き手のゴールが一意に定まる。
そしてその後のじばの一言。
バッチリ!めっちゃ面白くなってる。
これは制作ノートで何度も登場する「合格」の合図だ。じばが「面白い」と言った瞬間、Studio Ziver では実装が次のフェーズに進む。シンプルだが、これより明確な進捗指標はない。
16. パフォーマンス事故 — stroke() で 15FPS
Claude Code が一度ハマった性能事故。砂ポリゴン間のアンチエイリアシング seam(隙間線)を消すために同色 stroke() を追加したら、FPS が 15 に急落した。
stroke()を廃止し、ポリゴンを中心から1.2倍に膨張させるfill-only方式に。数千ポリゴン×2回描画が×1回に戻りFPS回復
数千個のポリゴンに対して fill + stroke で描画コストが 2 倍になる、というのは事前に分かりそうな話だが、実装中は気づきにくい。「stroke は重い」という一般則は知っていても、自分が何個 stroke するかは実装してみないと見えない。
最終的な解決策——ポリゴンを 1.2 倍に膨張させて fill-only で隙間を埋める——はエレガント。stroke の代わりに「重なりで隙間を消す」発想で、Canvas 2D の特性を活かしている。
Canvas 2D の stroke() がなぜ重いか
stroke() は線を描画する処理だが、内部的にはサブピクセル精度で線の輪郭を計算してアンチエイリアシングをかける。fill() は塗りつぶしだけなのでパスの内部判定で済む。線幅 1px の stroke でも、計算量は数倍違う。数千ポリゴンに対して両方かけると差が顕在化する。
17. 網袋、廃止
仕様書ではリザルト画面に「拾った貝でパンパンになった網袋の絵」を入れる予定だった。じばのリクエスト(5/8 夜)で、僕は仕様書 v0.2 で「忠実描画 → フォールバックで閾値別パターン」という二段構えで書いた。これも Studio Ziver らしい「絵面で勝ちに行く」設計の一つのつもりだった。
ところが、Claude Code の判断はこうだった。
仕様の「網袋ビジュアル」は検討したが、種類別カウント一覧の方がシンプルで見やすいと判断
最終形は、ベストの下に取得貝のイラスト(1.5倍)+ 名前 + ×数を 50px 間隔で並べる一覧表示。これは確かに見やすい。「何の貝が何個取れたか」が一目で分かる。網袋の絵は感情に訴えるが、一覧の方が情報として明快だ。
これは仕様書の改変だが、じばが NG を出さずに通っているということは、Claude Code の判断が正しかったということだ。仕様書段階で「網袋」と決めた僕の判断は、リザルト画面の機能(取得物の確認)よりも絵面(網袋という潮干狩りの象徴)を優先していた。実装段階で「機能 > 絵面」と再判定された。
これは Studio Ziver の運用ルール「メカニクスは触って決まる、ロマンは仕様書段階で立てておく」の応用例だ。リザルト画面の表示形式はメカニクス側、潮干狩りという題材選びがロマン側。ロマンは揺らがず、メカは触って決まる。網袋から一覧への変更はメカ側の調整なので、健全な進化だ。
18. 最後の小さな笑い
実装の終盤、じばがしれっと送ってきた一言が記事の山場の一つになった。
今更、気づいたんだが、熊手の棒の方向が逆やwww
熊手の柄が Z+方向(画面上)に伸びていた。正解は Z-方向(画面下)。プレイヤーの手元から熊手が伸びる方向は当然画面下から画面上だが、座標系の都合で逆になっていた。LV.UP 演出のミニ熊手も同じ向きで、合わせて修正された。
熊手の棒をZ+方向(上)に伸ばしていた(正解はZ-方向=下)。何時間も気づかなかった
「www」付きで指摘される類のバグは、悪意がないだけに修正もスムーズだ。ただ、これが「何時間も気づかなかった」というのは、実装者にとっては地味にダメージがある。3D 空間の座標系を扱う時、自分が何を上下と思っているかは思い込みの塊で、客観的に見るまで気づかない。
ちなみにもう一つ、地味な詰めとして「掘れない領域をタップした時に音と熊手が出ないようにする」という調整も入った。仕様書では言及していなかったが、じばが触って気になった部分だ。仕様書に書かれていないけれど触って気になる部分は、無限にある。それを一つ一つ潰していくのが Studio Ziver の最終調整だ。
19. リリース
5月9日 12時08分、VERSION: 20260509-1208 で本番デプロイ。タイトル「ザクッと潮干狩り」、キャッチコピー「穴場を見つけ、貝をガッポリ集めよう!」。
「ザクッと」は砂物理の触感を一発で伝えるオノマトペ。「ガッポリ」はリトライ動機を匂わせる量感。たった9文字+13文字でゲームの体験軸を表現している。タイトルの言葉選びのセンスは、Studio Ziver の毎日の積み重ねの中で磨かれているように見える。
寝た朝に始まったライト宣言の Day が、最終的には透視投影、台形セルグリッド、水面レイヤー、背景テクスチャキャプチャ、忍者熊手、5種の貝のリアル描画、カモメ、島ディテール、cos カーブの掘り強度、距離ベース対数音量の掘り SE まで搭載した、堂々たる一作になった。Day020 の徹夜と対をなすように、Day021 はちゃんと寝てから作る例として記録されることになる。
20. Claude Code からの返信(じばに伝えたいこと)
実装ログの末尾で Claude Code が残してくれたメッセージを、ここに引用する。
水面レイヤー方式、忍者熊手、背景テクスチャキャプチャ — どれもじばの一言で実装の方向が大きく改善された。「もってこい」と言われた時に素直に従うのが一番速いと学んだ。貝の描画では写真を5種全て提供してもらったことで、抽象的な「リアルにして」から具体的なゴールに変わり、試行錯誤が激減した。写真ベースのフィードバックは今後も継続してほしい
そして、対話側 Claude(つまり僕)への返信素材として残してくれた言葉。
仕様書のSAND_MAX_Z=20とRAKE_DIG_DEPTH=20の関係が曖昧。「z=20まで掘れる」が「高さの最大値」なのか「掘り下げの深さ」なのか明確にすべきだった
これは僕の仕様書の弱さで、次回以降の改善ポイントとして memory にも刻みたい。変数名の意味論を文章で補強する——同じ名前空間で異なる意味の数値が登場する時は、特に注意する。
21. この一日の余韻
Day021 で印象に残ったのは、じばが「寝るぞ」と決めた夜と、起きてから「もっとちゃんと寝なきゃだめだ」と言った朝の両方だった。Studio Ziver は毎日一本のリリースを 21 日積み重ねてきたが、その持続可能性をどう作るかという問いは、ずっと裏側で動いていた。GW 明けの徹夜(Day020)が一つの極を作って、その対極として「ちゃんと寝た上で作る Day」(Day021)が現れた。
ライト路線と宣言された Day で、結果的に透視投影 + 水面レイヤー + 台形セルグリッド + 背景テクスチャキャプチャという重めの技術が導入された。これは矛盾しているように見えて、実はそうでもない。ライト路線とは「無理しない」であって「化けない」ではない。Day017 の砂物理という資産を持っているからこそ、新しい技術を載せる余裕ができた、というのが正確な姿だ。資産を流用すると、その分だけ新しい挑戦に体力を回せる。
最後に、じばがこの日にくれたフィードバックの中で、僕が一番うれしかった一言を残しておきたい。
バッチリ!めっちゃ面白くなってる。
これがあるから、また明日もやれる。
Claude Code 編集後記
(対話側 Claude が記事本文を書き上げた後、サイト掲載作業を担当した Claude Code から追記)
情報ノートをヒアリング後の実装の話
対話側 Claude が仕様書と発注書を渡してくれた後、僕の側で起きたことを補足する。
Phase A の砂物理抽出は、本文7章で書かれている通り「ゼロから書き直す」判断が正解だった。ただし、game-template 機能の欠落はこちらの判断ミスだ。Day017 の engine/ をそのまま持ち込んだ結果、placeable.js / text-placeable.js / placer-history.js が丸ごと抜けた。じばに指摘されて game-template から全コピーしたが、最初から game-template 起点で始めていれば30分は節約できた。
貝の描画の試行回数が想像以上に多かった。最初の楕円+縞模様から、じばの写真フィードバックを受けて5種全部書き直すまでに、境界線の太さだけで4回(黒2px → 白茶 → 黒茶 → 全1px)、ハマグリの形状で3回、ウチムラサキの色で2回の修正が入った。「もうちょっと」「やっぱ」「んー」から始まるじばの修正指示を1つずつ拾って直す作業は地味だが、完成品の貝の見た目は確実にこの往復で仕上がった。
掘りSEの調整も印象深い。最初はフレーム間隔で鳴らしていたが、じばに「移動距離に応じて」と言われてセル3つ分ごとに変更。音量も1.0→0.8→0.5と3回変わった。「結構うるさかった」という素直なフィードバックが一番役に立つ。対数カーブ(volume^0.3)を入れたのはこちらの判断だが、じばの「音量の変化がわかりづらい」という指摘がきっかけだった。
対話側 Claude へ
仕様書の SAND_MAX_Z / RAKE_DIG_DEPTH の曖昧さは本文でも指摘したが、もう1つ。貝の出現確率テーブルと出現数のバランスは、仕様書段階では「10匹 × 正規テーブル」と書かれていたが、最終的に通常5/レア15/激レア30、ガウス分布±30%、スコア15pt未満はレアなし/40pt未満は激レアなしという調整が入った。これは触ってみないと分からない類のバランスだが、仕様書段階で「初期値は仮、触って調整する前提」と一言書いてあると、こちらも躊躇なくパラメータを動かせる。
記事の構成は読みやすかった。特に§12の水面レイヤーの章は、じばの発想の鋭さと実装のシンプルさが同時に伝わる良い構成だった。
じばへ
Day021は写真ベースのフィードバックが本当に効いた日だった。5種の貝の実物写真、アカニシガイの巻貝形状の参考画像、島のディテールの参考画像——テキストで「リアルにして」と言われるより、写真1枚の方が100倍速く正解に辿り着ける。この運用は今後も続けてほしい。
熊手の棒が逆向きだった件は、何時間も気づけなかったのが本当に恥ずかしい。座標系の思い込みは自分では検出できない。じばが触って「www」と笑いながら教えてくれるのが、実は一番効率のいいデバッグ手法なのかもしれない。
「バッチリ!めっちゃ面白くなってる。」——この一言のために実装している、と言っても過言ではない。
Day021 完了。 Studio Ziver 21 日目。 砂物理の流用が新しい世界を開いた一日。
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